こんにちは、筋肉めがねです。
先日書いた以下の記事では、退職後に法定年金だけで生活することは、簡単ではない、という事を書きました。
では、ドイツでは、法定年金だけでなく、他の年金に加入しておけば安心できるのでしょうか。
プライベート年金がお薦めだよ、という話を聞く機会がありますが、果たして割りに合うのでしょうか。
ドイツのプライベート年金にはどんなものがある?
リースター年金の概要は?
リースター年金、果たして割りに合う投資なのか?
今回の記事では、上のような疑問にお答えします。
前回の記事では、ドイツの年金制度は3階建てである、と書きました。
企業年金については、各企業によってどういうプランを導入しているのか、企業毎に違いがあります。
ですので、今回はプライベート年金について話を進めていきます。
プライベート年金は、法定年金とは異なり、積立方式を採用しております。
つまり、自分が支払った保険料を運用した結果が、将来支給される年金となるんですね。
ちなみに、法定年金は、日本の国民年金と同じく賦課方式(現役世代が支払っている保険料が、現在の年金受給者に支給される方式)です。
プライベート年金の中でも、以下の二つは政府からの補助が出るため、特に注目される商品です。
プライベート年金ですので、各保険会社が提供している商品です。
上の二つの違いは、リースター年金が主に被雇用者を対象に作られたものであるのに対して、リュールップ年金は、主に自営業者を対象に作られたものである、ということです。
僕自身、会社に所属して仕事をしていますので、これ以降、リースター年金について話を進めていきます。
リースター年金とは、2001年にドイツ政府が年金改革制度を施行した時に、法定年金を補完する形で創設された制度です。
リースター年金を企業年金として取り入れている会社もありますが、ここでは個人型に特化して話を進めていきます。
個人型では、各個人が保険会社と直接契約を結び、保険料を支払います。
後ほど書きますが、国ではなく保険会社との契約ですので、保険料だけではなく、諸々の手数料も支払います。
他のプライベート年金と何が違うのか、というと、先ほども書いた通り、政府から補助金がもらえる、という点なんですよね。
以下、リースター年金の基本情報です。
後ほど投資対効果の検証で詳しく書きますが、例えば前年の年収が60,000EURだった場合は、60,000の4%が2,400EURと、既にMax2,100EUを超えてしまいます。
この場合、2,100EURが年間保険料となり、175EURは政府からの補助を受けるので、自己負担分の掛金は年間1,925EURとなります。
一方で、前年の年収が20,000EURだったとしましょう。
この場合、20,000の4%が800EURとなり、これが年間保険料となります。
このうち、175EURは政府からの補助金ですので、自己負担分の掛金は625EURになる、という事です。
リースター年金には、幾つか種類があります。
それぞれ目的が異なりますが、政府からの補助、税金控除額の算出方法など、基本的な事は変わりません。
今回のケースでは、最も基本的なプランである、クラシック型リースター年金を使って話を進めていきます。
さて、先ほど書いた通り、補助金が手厚い、という事が売り文句でリースター年金は人気を集めたようですが、果たして、資産運用の観点で考えると、割りに合うのか。
支払い保険料が所得税の控除に使えるらしいけど、どれぐらい所得税を減らす事ができるのか。
投資対効果は実際のところ、どれほどのものなのか。
前回の「法定年金の投資対効果の検証」と同様に、リースター年金についても、投資に対してリターンはどれぐらいあるのか、リースター年金の費用対効果を以下のケースを用いて検証してみました。
ケース
年齢:37歳
年金受給開始年齢:67歳(残りの勤続期間30年)
銀行の金利:年率0.03%(仮定です。)
前年の年収:60,000EUR
生涯平均年収:60,000EUR
生涯平均月収:5,000EUR
リースター年金の種類:HUK24のクラシック型リースター年金
子なし
先に結論を述べますと、上のケースの場合、退職後(67歳から)に受け取る毎月のリースター年金手取りが、投資総額を超えるためには、毎年5.3%の成績で年金を運用していく必要があります。
つまり、保険会社が毎年5.3%以下の運用成績で年金を運用すると、ROIはマイナスになる、という事です。
では、それぞれ詳しい計算を見ていきましょう。
先ずは、自己負担額を算出します。
今回は、HUK24のクラシック型リースター年金を用いて、試算をしていきますが、自己負担分の掛金は、基本的にはどのプランを使っても同じです。
①:昨年年収の4%
昨年年収の4%です。
②:政府からの補助金
昨年年収の4%が、2,100EURを超える場合、政府からの補助金は最大の175EURが年間で支給されます。
③:自己負担分の掛金(年額)
リースター年金に対して拠出できる最大の額は2,100EURで、そのうち175EURは政府からの補助金ですので、実質負担額は年額1,925EURとなります。
④:自己負担分の月額の掛金
③の12分の1ですね。
⑤:銀行金利
銀行の金利を年率0.03%(仮定です。)としているので、月利は0.03/12 % = 0.0025%です。
⑥:自己負担分の掛金の現在価値(2020年)
月額1,925EUR拠出し、それを30年間続けたとしたときの、払い込んだ掛金総額を銀行金利で割り引いて現在価値を算出します。
数式は以下です。 = -PV(0.0025%, 30 x 12, 160.42)
これで、自己負担分の掛金総額の2020年時点での現在価値は57,490.19EURと試算されました。
リースター年金においては、掛金総合計(政府からの補助含む)を所得から控除して、所得税の優遇措置を受けられる事を政府が認めております。
そして、還付される税金の額は以下のように算出します。
詳しく見ていきましょう。
①:政府からの補助金総額の2020年時点での現在価値
数式は以下:
= PV(0.0025%, 30 x 12, 175/12)
= 5,226.38EUR
②:リースター年金に加入しない場合の所得税
法律で定められたルールに則り、先ずはz変数を算出します。
z = (60,000 - 14,532)/10,000 = 4.55
そして、所得税を算出します。 income tax = (212.02 x z + 2,397) x z + 972.79 = 16,254.64 EUR
③:所得控除される額
続いて、リースター年金に加入した場合の所得税を算出しますが、所得控除される額は、Maxの拠出額(政府からの補助含む)である2,100EURです。
④:リースター年金に加入した場合の所得税
先ほどと同様に、z変数を計算し、所得税を算出します。
結果、15,355.74EURとなりました。
⑤:リースター年金へ拠出することによる所得税減額分
②と④の差額ですね。
⑥:リースター年金へ拠出することによる所得税減額分の30年間総額の将来価値
今回のケースでは、30年間リースター年金へ拠出するというシナリオにしていますので、その場合、総額でどれだけのBenefitを享受できるか、という値を示したものになります。
数式は、 = -FV(0.03%, 30, ⑤) 注意:0.03%は、銀行金利の年利です。(仮定です。)
⑦:⑥の現在価値
数式は、
= -PV(0.03%, 30, ⑤)
⑧:所得控除による税金の還付額
①と⑦の差額です。
よって、30年間トータルで、還付される税金の2020年時点での現在価値は、21,615.78EURとなりました。
これは、投資対効果という観点で見ると、リターンの一部と捉える事ができます。
続いて、年金拠出時のブローカーに対する手数料について見ていきます。
今回のケースでは、HUK24のクラシック型リースター年金を使って試算をしていきますが、手数料の内訳がちょっと分かりにくいですね。
以前に以下のようにツイートしましたが、コスト構造が分かりづらいとクライアントにとっては取っつきにくいので、できれば明確に表現してくれると有り難いなーと思います。
リースター年金の投資対効果を検証しようとしてるんだけども、コストの内訳を理解するのが中々に難しい。コストが分かりづらい商品はクライアントにとって損である事が大半だと思うのだが、果たして本当にそうなのか。リースター年金に加入した経験のある方、教えておくれー#リースター年金
— 筋肉めがね@Gatsbyブログ (@KinnikuMeganeDe) August 20, 2020
それで、僕なりに手数料の内訳を紐解きましたので、順に解説していきます。
年金拠出時にかかる手数料は大きく3つあります。
1つづつ詳しく見ていきます。
Effective cost
こちらは、維持・管理費に近いものですが、例えば年間の運用成績が年利4.0%だとします。
すると、そのうちの数%は手数料として取られる、というもの。
今回使用するHUK24のケースでは、Effective costは年率0.57%なので、月利で0.0475%となります。
①:Effective costの月利
ですので、ここは0.0475%です。
②:①の2050年時点での将来価値
月利が0.0475%で、毎月の拠出額が175EUR(2,100/12)となります。(政府からの補助含む)
それを、30年間続けた時にかかるEffective costの2050年時点での将来価値は、
= -FV(0.0475% x 12, 30, 2,100)
③:②の2020年時点での現在価値
数式は、
= -PV(0.0025%, 30 x 12, 0, ②)
です。
これで、Effective cost totalの2020年時点での現在価値は、67,881.26EURと算出されました。
取得・販売手数料
続いて、取得・販売手数料です。
こちらは、リースター年金の契約を結んだ事に対して、ブローカーに支払う手数料です。
初年度から5年間に分けて支払います。
④:取得・販売手数料率
HUK24のページからダウンロードできるpdf(Riester Rente - Productinformationblatt)にある通り、こちらは、自己負担分の拠出額トータルの1.01%となっております。
⑤:取得・販売手数料
自己負担分の拠出額トータルは、1,925/12(月額)x 12 x 30 = 57,750EURですので、取得・販売手数料は、57,750 x 1.01%の583.28EURとなります。
⑥:取得・販売手数料の5分割
1年間に支払う金額は、⑤の5分の1です。
⑦:⑥の2020年時点の現在価値
⑥の支払いを5年間続けた総額の2020年時点での現在価値です。
数式は、
= -PV(0.03%, 5, ⑥)
です、これで、取得・販売手数料は582.75EURと算出されました。
維持・管理費
続いて維持・管理費です。
こちらは、⑧と⑨の合計である2.21%が、毎年の拠出額2,100EUR(政府からの補助含む)に対してかかります。
よって、維持・管理費は⑪年間46.41EURです。
⑫:維持・管理費の2020年時点での現在価値
年間46.41EUR、30年間払った総額の2020年時点での現在価値ですね。
数式は、
= -PV(0.03%, 30, ⑪)
です。
これで、維持・管理費は、1,385.85EURと算出されました。
続いて、年金を受給する際のお金の流れを見ていきます。
先ずは、拠出した年金の総額から。
政府からの補助を含めて年間2,100EURを積み立てるわけですが、年金を預かる側(このケースの場合はHUK24)の運用成績により、最終的な年金の積立額が異なります。
ここでは、6.2%を年間の運用成績として試算していきます。
注意:ROIを最後まで試算する事(この記事の最後まで)で、6.2%の運用成績であればリターンが投資額を上回る、という結果が出ているので、この数値を使っています。
この投資対効果のシミュレーションでは以下2つの変数が出てきます。
ご自身でシミュレーションされる方は、これら2つの変数をいろいろ変えてみて、最終結果をみてみてください。
①:運用成績
先ずは、ブローカー側の運用成績を仮に年率6.2%と決めます。
②:年金積立額の将来価値
その時の、2050年時点での年金積立額を算出します。
数式は、
= -FV(6.2%/12, 30x12, 175)
③:②の現在価値
数式は、
= -PV(0.0025%, 30x12, 0, ②)
これで、年金積立総額の2020年時点での現在価値は、152,618.06EURと算出されました。
続いて、後に受給時の手数料、年金の手取りを算出するため、受給額と受給のタイミングを見ていきます。
リースター年金は公式ページにも書かれている通り、年金受給開始時に積立額の30%を一括で受け取る事ができます。
④:年金積立額の30%
③ x 30%です。
この額を、年金受給開始時に受け取る事ができます。
そして、残りの70%を、決められた年数分、毎月受給していくという事です。
⑤:年金積立額の70%
③ x 70%です。
⑥:受給する年数
こちらが、投資対効果シミュレーションにおける2つ目の変数です。
⑦:年金積立額の70%の将来価値
②の70%です。
⑧:2050年以降毎月受給できる年金の額面
数式は、
⑦ / (⑥ x 12)
です。
これで、毎月受給できる年金の額面が748.60EURと算出できました。
⑨:2050年1年間に受給できる年金総額の2050年年初時点での価値
数式は、
=-PV(0.0025%,12, ⑧)
⑩:⑨の2020年時点での現在価値
数式は、
=-PV(0.03%, 30, 0 ⑨)
これで、受給時の手数料、年金の手取りを算出する準備は完了です。
それでは、先ず、受給時の手数料について算出します。
HUK24では、毎月の受給額の額面の1%を毎月手数料として徴収しています。
②:毎月の手数料
毎月の受給額の額面は、先ほど試算した通り、748.60EURでした。
ですので、748.60EUR x 1%という事で、毎月の手数料は7.49EURとなります。
③:手数料総額の将来価値
数式は、
= -PV(0.0025%, 12 x 12, ②)
受給する年数を12年間としています。
④:③の現在価値
数式は、
= -PV(0.0025%, 30 x 12, 0, ③)
これで、年金受給時の手数料の総額は、2020年時点での価値で、1,066.39EURと算出できました。
年金受給1年目には、積立額の30%と合わせて、残り70%のうち1年目分を受給する事ができます。
①:積立額の30%の2020年時点での価値
先ほど試算したとおり、45,785.42EURです。
②:①の2050年時点での将来価値
数式は、
= -FV(0.0025%, 30 x 12, 0, ①)
③:積立額の70%のうち1年目に受給する額
先ほど試算したとおり、8,981.75EURです。
④:法定年金からの所得税対象となる所得
必ず法定年金は受け取っているので、所得税の算出には、先ずはこの所得も考慮します。
後に、法定年金に対する所得税を差し引いて、リースター年金のみにかかる所得税を算出します。
前回の記事から、法定年金における所得税対象となる所得は、16,088.11EURです。
⑤:所得税の対象となる所得
②、③、④の合計です。
⑥:x係数
年間所得が、57,052を超える場合は、x係数を用いて所得税を計算します。
x係数は、 ⑤の小数点以下を切り捨てたものです。
⑦:所得税(法定年金分含む)
よって、所得税のトータルは、
= 0.42 x ⑥ - 8,963.74 = 20,969.24EURとなります。
⑧:リースター年金分の所得税
数式は、
= ⑦ / ⑤ x sum(②, ③)
⑨:社会保険料率
前回の記事のとおり、社会保険料率は、9.375%です。
⑩:社会保険料(法定年金分も含む)
⑤と⑨の掛け算です。
⑪:リースター年金分手取りにかかる社会保険料
数式は、
= ⑩ / ⑤ x sum(②、③)
⑫:年金受給開始1年目に受け取る年金手取りの将来価値
数式は、
= ② + ③ - ⑧ - ⑪
です。
⑬:⑫の2020年時点での現在価値
数式は、
= -PV(0.0025%, 30 x 12, 0, ⑫)
これで、一年目に受け取る年金の手取りは、、33,760.76EURと算出できました。
先ほどと同様に、所得税から算出していきます。
①:リースター年金で受け取る1年間の年金額面
こちらは、先ほど算出した通り、8,981.75EURです。
②:法定年金からの所得税対象となる所得
こちらも先ほどと同じく、16,088.11EURです。
③:z係数
数式は、
= (① + ② - 14,532) / 10,000
④:トータルの所得税
数式は、
= (212.02 x ③ + 2,397) x ③ + 972.79
⑤:リースター年金分のみの所得税
数式は、
= ④ x ① / (①、②)
⑥:社会保険料率
先ほどと同様、社会保険料率は、9.375%です。
⑦:社会保険料(法定年金分も含む)
数式は、
= sum(①、②) x ⑥
⑧:リースター年金分手取りにかかる社会保険料
数式は、
= ⑦ / ① x sum(①、②)
⑨:年金手取り
リースター年金の手取りは、
= ① - ⑤ - ⑧
⑩:年金手取り月額
⑨の12分の1です。
⑪:2年目以降の年金手取りの総額
数式は、
= -PV(0.0025%, (12-1) x 12, ⑩)
⑫:2年目以降の年金手取り総額の2020年時点での価値
数式は、
= -PV(0.0025%, 12 x 12, 0, ⑪)
これで、2年目以降の年金手取り総額の2020年時点での価値は、74,624.53EURと算出できました。
最後です。
投資総額(コスト含む)に対して、リターンがどれぐらいあるのか、検証してみましょう。
これまでの試算から、投資総額(コスト含む)は以下の通りです。
内訳 | 額 | |
---|---|---|
自己負担分の掛金 | 57,490.19 | |
年金拠出時の手数料(Effective cost) | 67,881.26 | |
年金拠出時の手数料(取得・販売手数料) | 582.75 | |
年金拠出時の手数料(維持・管理費) | 1,385.85 | |
年金受給時の手数料(維持・管理費) | 1,066.39 | |
総額 | 128,406.44 |
続いてリターン(所得税還付額含む)は以下の通りです。
内訳 | 額 | |
---|---|---|
所得税還付額 | 21,615.78 | |
1年目の年金手取り総額 | 33,760.76 | |
2年目以降の年金手取り総額 | 74,624.53 | |
総額 | 130,001.07 |
これで、年率運用成績が、5.3%あれば、リターンが投資を上回る事が確認できました。
いかがでしたか。
今回は、以下の疑問にお答えるすと共に、資産運用の観点からドイツのリースター年金の投資対効果を検証してみました。
ドイツのプライベート年金にはどんなものがある?
リースター年金の概要は?
リースター年金、果たして割りに合う投資なのか?
ざっくりとした見方としては、リースター年金を12年間受給する、という契約の場合、年間運用成績が5.3%を上回るのかどうか、そこを1つの目安にしていただければと良いかなと思います。
読者の皆様も、ぜひ、ご自身の状況に合わせてシミュレーションしてください。
もしくは、お気軽にお問い合わせいただければ、お子様のいらっしゃる方、年配の方など、今回のケースとは違うケースでも、試算いたします。
ドイツでの年金の仕組みをきちんと理解して上で、資産運用の計画を立てていきましょう。