ホーム雑記資産運用におけるアルファとは
2021年1月04日

資産運用におけるアルファとは

alpha

こんにちは、めがねです。

新年あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願いいたします。

さて、CFA Level2の勉強を日々進めておりますが、アルファという言葉を改めて復習する機会がありましたので、学んだ内容をまとめようと思います。

そもそもアルファとは、ギリシャ文字における最初のレターであり、そこから派生して、集団の中で圧倒的な力を持つ個体を表す言葉として使われたり、あるいは、素粒子物理学の分野で、ヘリウム4(陽子2個、中性子2個)の原子核として使われたりします。

この記事では、資産運用におけるアルファについて書いていきます。

資産運用におけるアルファとは

資産運用におけるアルファとは、ある投資におけるポートフォリオの運用成績が、市場の状況から想定される理論的なリターンをどれだけ上回る成績をあげているのか、を示す差分の事です。

そして、アルファの重要な点は、そのポートフォリオが許容できるリスクの大きさを考慮している、という点です。

アルファの提唱者

資産運用におけるアルファを定義したのは、Jensen Michaelで、彼が1967年に発表した論文「The performance of mutual funds in the period 1945-1964」で、はじめてアルファが言及されました。

これが、アルファが別名、Jensen’s Alphaと呼ばれる所以です。

彼は論文のイントロで、以下のポイントを挙げています。

  1. 従来の指標では、異なるリスクを持つ複数のポートフォリオのパフォーマンスを横断的に測定する事ができなかった。
  2. ほとんど全ての従来研究が、相対的な指標(Aに対してBは幾ら)を提唱しており、絶対的な指標が存在しなかった。
  3. この論文で提唱するアルファは、ポートフォリオマネージャーのforecasting performanceを測定するものであって、効率性を測定するものではない、という事。

そして、アルファという概念を導入する準備として、彼は論文中で、最初にCAPMの話を展開しています。

そもそもCAPMとは何か

Jensenがこの論文を発表する3年前の1964年に、William Sharpe(Sharpe ratioの提唱者)が、CAPM理論に関する論文「Capital asset prices: A theory of market equilibrium under conditions of risk」を発表しました。

CAPMは以下の数式で表す事ができますが、これは、βというシステマティックリスクを持つポートフォリオが、どれだけの収益率をあげる事ができるか、を示しています。

E(Rj) = Rf + βj x [E(Rm) - Rf]

数式から導ける事は、期待収益率:E(Rj)です。

細かい説明になりますが、各項を1つ1つ理解していきましょう。

Rf:
リスクフリーレートと呼ばれるもので、通常、3ヶ月の短期証券(Treasury Bill, T-Bill)のレート等が使われます。 例えば、米国の3ヶ月短期証券のレートは、12月30日時点で、0.08%です。 そして、米国政府が発行しているため、政府が破綻しない、という事を前提として、リスクは0であるとみなされます。 つまり、どんなポートフォリオであっても、0.08%のリターンは見込めるという話です。

βj:
システマティックリスクと呼ばれるもので、ポートフォリオが、株式市場の動向にどれほど影響を受けるのか、を示しています。 βに影響を与える市場の要因としては、例えば金利の上昇、下落、昨今で言えば、ワクチン関連のニュース等も入るでしょうか。 それで、値が1であれば、そのポートフォリオは、市場と全く同じ動きをする、という事になります。

E(Rm):
マーケットポートフォリオの1ピリオド(例えば3ヶ月)の期待収益率です。 マーケットポートフォリオとは、市場内における各資産が、市場全体の時価総額に対して何%であるか、という割合に応じて、資金を市場内の各資産へ分散投資する、という構成で組まれたポートフォリオです。

例をあげると、例えばABCという市場に100の銘柄があり、それぞれの株式の、全体の時価総額合計に対する割合が以下であったとします。

stock A: 5% stock B: 4% stock C: 3% stock D: 2% stock E: 1.9% … …

この時、資金が$100とすると、そのうち5%の$5をstock Aへ投資し、4%の$4をstock Bへ投資する、という形で、$100の資金を各銘柄に分散します。

その時、1ピリオドで同ポートフォリオがどれだけの収益率をあげる事ができるのか、という事を示した指標がE(Rm)です。

つまり、CAPMで算出できるポートフォリオの期待収益率とは、以下の二つを合わせたものとなります。

  1. 市場を模したマーケットポートフォリオがリスクフリーレートを上回る期待超過リターンに、対象のポートフォリオが持つシステマティックリスクを掛け合わせたもの。
  2. リスクフリーレート

各項の内容を理解した上で、改めてCAPMが示すところを端的に言うと、「リスクが大きければ、期待収益率が高くなる」、という事です。

投資家からの視点で言うと、「これだけのリスクを取るんだから、理論的にはこれぐらいのリターンを期待していますよ。」という事です。

ここで、CAPMが成り立つための前提について触れます。

Jensenの論文でも述べられている通り、CAPMが成り立つためには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 全ての投資家が、リスクを嫌う傾向がある事。
  2. 全ての投資家が、意思決定にかける時間は等しく、全ての投資機会に対して同質の期待を持っている事。
  3. 全ての投資家が、期待リターンとリターンの分散(*1)のみに基づいて、ポートフォリオを選択できる事。
  4. 全ての取引コスト、および税金がゼロである事。
  5. 全ての投資対象となる資産が無限に分割できる事。

(*1): 分散とは、データのばらつきの事です。分散が大きいほど、期待されるリターンのばらつきが大きい事になります。

しかし、実際の市場では取引コストや税金がゼロになることもなければ、全ての投資家が、全ての投資機会に対して同様の意思決定基準を持っているわけでもありません。

現実には、CAPMから逸脱する状況が存在します。

この、CAPMから逸脱する状況においては、あるポートフォリオが、そのポートフォリオが持つ理論的な期待リターンを上回る成績をあげる事があるのです。逆も然り。

CAPMからアルファへの展開

それで、Jensenは、その超過リターンをアルファと名付け、CAPMの数式にアルファを追加しました。

E(Rj) = α + Rf + βj x [E(Rm) - Rf]

アルファとは、あるポートフォリオが、市場からの様々な影響を受けるとこれぐらいのリターンを出すよね、という期待リターンを、どれだけ超過する事ができるのか、を示したものです。

Jensenは論文の中で、アルファとは、超過リターンを示すと同時に、ファンドマネージャーの市場を予測する能力を計測できる指標だと書いています。

そして、Jensenは、市場で実際に取引しているファンドマネージャーの中に、CAPMで算出される理論値を超過するリターンをあげている者がいるのかどうか、検証する事にしました。

Jensenが計測したアルファ値

Jensenは、115種類の投資信託をピックアップし、それらの1945年から1964年の期間におけるパフォーマンスを計測しました。

それらの投資信託が、理論的な期待リターンを超過するリターンをあげることができたのか、そして、運用しているファンドマネージャーに、市場を予測する能力があったのかどうか。

結果、 それら115種類の投資信託のパフォーマンスの平均値が、理論的な期待リターンを下回る結果を出しただけでなく、どの個別の投資信託についても、理論的な期待リターンを大幅に上回るパフォーマンスを示す事ができなかった、と書いています。

つまり、αの平均値はマイナスでした。

これは、投資信託のパフォーマンスが、仲介手数料をカバーする事すらできなかった、という事です。

定期預金にいれておいた方が幾分かマシだと言う事ですね。

そして、最後に彼は以下のように結論づけています。

the results reported here should not be construed as indicating the mutual funds are not providing a socially desirable service to investors; that question has not been addressed here. The evidence does indicate, however, a pressing need on the part of the funds themselves to evaluate much more closely both the costs and the benefits of their research and trading activities in order to provide investors with maximum possible returns for the level of risk undertaken.

投資家が負うリスクのレベル応じて、最大限のリターンを投資家に提供できるように、投資信託それ自体が、運用に関わるコスト、そしてもたらす便益の両方を詳細に検証する事が望まれている、と。

まとめ

今回は資産運用におけるアルファについて、アルファが世に知られるきっかけとなったJensenの論文、を紐解きながらまとめてみました。

参考

「The performance of mutual funds in the period 1945-1964」

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